安っぽい作り話 第2作 お婆ちゃんの木
安っぽい作り話 第2作 お婆ちゃんの木
春には、小鳥と、うた唄い。
夏には、涼風連れて来て。
秋には、紅や黄色におしゃれして。
冬には、雪の、綿帽子かぶる
公園の真ん中には、大きなイチョウの木が生えていた。
枯れかけた老木で、葉の残る枝も、もう少い。
その老木の前には、一つのベンチが有って、午後になると、何時も一人の老婆が座っていた。
老婆は、公園にくる子供達の人気者で、子供達に、昔の話や唄を聞かせていた。
ある日の事、老木の枯れた枝が折れて、それが子供に当って怪我をした。
その子は、木にとまっていたカブトムシを落とそうと、老木を何度も蹴っていた。
老木の枯れた枝は、その衝撃に耐えられず、ポッキリと折れてしまったのだった。
怪我をした子供の母親が、血相を変えて役所に抗議に向かった。
「あんな枯れ木を何時までも放って置くから、こんな事になったんです!、今すぐ切り倒して下さい!」
役所も「怪我人が出てしまった以上、仕方が無い」と、老いたイチョウの木は、伐採されることが決まった。
「おばあちゃん!」
何時もベンチに座っている老婆に、男の子が、元気良く挨拶をしてきた。
「あぁ、きよし君、今日も元気だね」
「うん」と、うなずくその子は、今年、小学校に入ったばかりだ。
「おばぁちゃん、またあのお話して!」
きよしは、老婆の昔話が大好きだった。
「はい、はい」
老婆は、微笑みながら、何時もの昔話をする、きよしは、大好きな話に聞き入っていた。
時間が経ち、夕暮れが近づいて来る。
「もう、こんな時間かい、そろそろお母さんが来るね」
老婆の問いかけにきよしは「うん」と、うなずいた。
きよしの母は、近くのスーパーで、パートタイマーをしている。
何時も夕方になると、この公園を通り、きよしと合流して帰るのが日課だ。
「きよし君、あのね、おばあちゃん、今日でお別れしなくちゃいけないのよ」
老婆は、突然そんなことを言い出した。
「おわかれ?」
キョトンとするきよしに、老婆は続けた。
「貴方くらいの子供にね、怪我をさせてしまったの、だから、おばあちゃん、もうここに居れなくなっちゃったの」
突然の言葉に、思考が追いつかないきよし。
「きよしー、帰るよー」
不意に、誰かがきよしを呼ぶ、きよしの母だ。
「はーい」
きよしは、元気な返事をして、母のほうに駆けて行く。
その途中で、立ち止まり、振り返る。
「おばあちゃん、またねー」
きよしは、そう言って大きく手を振ると、また、母の元へ駆けだした。
「たった今、もう会えないよって、言ったのにねぇ…」
そう言って、老婆は苦笑いを浮かべると、目の前の大きな木を見上げた。
「前は、アレくらい平気だったのにねぇ…、もう、耐えられなくなってたんだねぇ…」
その翌日、イチョウの老木は切り倒され、根も引き抜かれた。
きよしは、老木が消えて寂しくなったあのベンチで、ずっと老婆を待っていたが、もう二度と、逢える事は無かった…。
-15年後-
あの公園の真ん中には、大きなイチョウの木が生えていた。
老木が抜かれた後、そこから新しい芽が息吹き、気が付けば、小さな木になっていた。
また、抜いてしまうべきだと言う意見に、待ったを掛けたのは子供達だった。
「木があった方がいい!」
「また、蝉取りしたい!」
そして、あの怪我をした子も。
「枝が折れたの僕のセイだよ!、僕が木を蹴ったから、なのに何であの木を切ったの?!、もう木登りも、カブトムシ捕りもできないじゃないか!」
「この木は、きっと、あの木の赤ちゃんだよ!、絶対抜いちゃダメだ!」
その思いは、大人たちにも広がった。
「俺も昔、あの木でよく虫を捕った」
「花火大会を、あの木に登って見たんだ」
「プロポーズされたのが、あの木の下でした」
「守りたい…、あの木の子供かもしれない、この木を…」
沢山の思いが集まり、大きな輪になり、その木はついに守られ、今では大きく成長していた。
「きよしさん、大丈夫?」
大人になったきよしは、酔ってあのベンチに座っていた。
そのきよしを、同僚の女性が介抱している。
すると、きよしが突然に唄いだした。
春には、小鳥と、うた唄い。
夏には、涼風連れて来て。
秋には、紅や黄色におしゃれして。
冬には、雪の、綿帽子かぶる
「なに、その唄?」
酔っ払いのたわ言と思いながらも、女性は聞いてみた。
それに、きよしは答える。
「昔、ベンチのお婆ちゃんに聞いた唄なんだ、この木の前の木に、誰かが贈った唄なんだって…。」
安っぽい作り話 第2作 お婆ちゃんの木 終
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
最近のコメント